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書 籍 案 内

風俗壊乱
 
――明治国家と文芸の検閲


ジェイ・ルービン
=著

今井泰子・大木俊夫・木股知史・
河野賢司・鈴木美津子=訳 

本体5000円+税
2011年4月8日発行
ISBN978-4-902163-59-9
A5判/上製 520頁
      
検閲VS文学

漱石の抵抗、荷風の苦渋、谷崎の屈辱……。
近代日本文学史の隠されたドラマを活写する
第一級の文学研究・ドキュメント。

明治国家の検閲制度は、近代日本の文学表現が生み出した私
的空間をどのようにとらえたのか。検閲制度のもとで、作家たち
は何を考え、どのように行動したのか。対決と妥協のドラマの諸
相をたどる稀有の研究。村上春樹の小説の翻訳者としても知ら
れるジェイ・ルービン氏の日本文学研究の主著。



この著者は、文学の計量には文学的な尺度を用いなければ
ならず、禁圧に対する抵抗量の多寡が作品の価値を決定す
るものではないことを、熟知している。これまでの「権力批
判」の思想に立った日本の文学批評の類いは、ほぼ常に、政
治と文学との極端な混同に陥って価値基準を狂わせて来た
ものである。しかし、本書はそういう偏向とは袂を分かって
いるし、そういう文学批評には批判的である。――今井泰子

      
目次

     日本語版への序文
     序文

第1章 序論


     第Ⅰ部 より単純な時代


第2章 法
     一八八七(明治20)年の新聞紙条例及び出版条令/法の枠外において

第3章 伝統的風刺と旧態依然の駄作
     「無用の人」成島柳北/新聞・政治・毒婦

第4章  写実主義の発達――検閲官が注目を開始する
     深刻小説、小栗風葉の『寝白粉』/「明星」の仏国裸体画/
     文明批評家としての作家――内田魯庵の『破垣』/気楽な戦前時代

     第Ⅱ部 日露戦争後

第5章  自然主義の発生
     
序幕――危険なる平和の思想/幻滅と世代間断絶/道徳批評の開始
     /風葉と漱石――職業作家)

第6章  出版における自然主義の拡大
     
『都会』裁判/自然主義的情死行と強姦

第7章  文学と人生、芸術と国家
     
膠着状態に向かって/文学・人生・曖昧な思考――天溪・花袋・啄木

第8章  政府の右傾化
     
第二次桂内閣/文芸院の問題――小松原邸における晩餐会

第9章  完成した検閲制度下の活動
     
国会が新聞紙法を通過させる/二つに分かれた世界――永井荷風/
     抗議と反論/森鷗外の『ヰタ・セクスアリス』、超法規的措置――
     森田草平と谷崎潤一郎


     第Ⅲ部 大逆事件とその後


第10章 森鷗外と平出修――大逆事件の内幕
     政治的風潮と思想的風潮/啓蒙家としての鴎外/弁護士としての平出/
     作家としての平出/恐怖と無知

第11章 他の文学者の反応
     逃避主義の問題/徳冨蘆花『謀叛論』/石川啄木――自然主義の無力/
     荒畑寒村――左右への逃避者/白鳥、杢太郎、花袋――市民の見方/
     批評家荷風/社会ににおける芸術の役割に関する魯庵の結論

第12章 完全な膠着状態――文芸委員会
     官製表彰への漱石らの軽蔑/政府の贈り物/委員会の誕生と崩壊/
     明治の終わり


     第Ⅳ部 国家的動員に向けて


第13章 概観・明治以降における思想統制と検閲

第14章 大正時代の谷崎


第15章 昭和の出版ブームと文芸懇話会

第16章 軍部と特高警察に引き継がれて
     委員会、当局、そして懇話会/「中央公論」と「改造」の悶死/横浜事件/
     出版業界の自主規制/ついに愛国的になった作家たち

註・引用文献目録・年表
解説――小森陽一
訳者後書き
索引

      
    
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